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2024/11/24 04:31 |
もうひとつの結末~中編~
時は進む、その終わりへと――



【Secne.3】
~過去から 現在への 絆~

夢を見ていた
遠い遠い、昔の夢
私がまだハチノコで、アルマもまだ小さくて
どうしてだろう
今更、そんな夢を見るだなんて…



それは、ちょっとだけ小さな頃のお話―

「アルマちゃーんっ!!」
 
降りしきる雨の中を、私は必死に這い続けた。泥が体にこびり付き、冷たくて気持ち悪い。
私は殺人蜂の子供、ハチノコのサチ。
そしてアルマちゃんはアルマジロ、2匹は幼馴染だ。

「アルマちゃんっ…、アルマちゃん、どこに居るのっ!?」

風が雨粒が木々の葉を打ちつけ、森中に嵐の旋律を響かせていた。
必死に親友の名を呼ぶ私の声は、あっけなく掻き消される。
体が重くて上手く動けない、不安と恐怖が私の心を塗りつぶしていった。

「ヤだよ…、アルマちゃん、一緒に居てよ…!」

悲痛な叫びが、嵐の森へと木霊する。


………


…事の始まりは、些細な喧嘩だった。
私は成体へと変化する時期を迎えて、サナギになった。
体が硬くって、全然動けない。だからアルマちゃんとも一緒に遊べない。
それに…、私はもう直ぐ蜂になる。それは大人になるって事。
今までみたいに、好きな時にアルマちゃんと遊べる訳じゃないんだ。
そう伝えると、アルマちゃんは拗ねて一匹で飛び出してしまった。

…その日は、島に嵐が向かっていた。
本当なら、そんな日に巣から離れたりしない。
だけど、その時は私もアルマちゃんも、冷静じゃなかったんだ…。

気が付いた時にはアルマちゃんは何処にも居なくて、行方不明だって話を聞かされた。
アルマちゃんが迷子になるのはいつもの事…、だけど、今日はヒドイ嵐。
こんな嵐の中じゃ大人達も満足に捜索が出来ない。それを聞いて私は、重い体を引きずって巣から飛び出していた。


………


「アルマちゃんっ、聞こえたら返事して!」

どれくらい歩いたのか、気が付けば随分遠くまで来ていた。
住み慣れた森…いつもアルマちゃんと一緒に遊んでいる森なのに、自分の居場所が分からない。
吹き続ける風と、昼間なのに真っ暗な空、動物達の姿もなくて、まるで知らない森のように思える。

「サっ………ん……!」

その時、微かな…、本当に微かな、アルマちゃんの声が聞こえた気がした。

「アルマちゃんっ!?近くにいるの…?」
「サっちゃん…、き………だ……」

声に導かれるように、体を這わせて先へと向かう。少しずつ大きくなる声、すぐそこにアルマちゃんがいるっ…!
私は必死に体を動かして、アルマちゃんの声を追い続けた。やがて、視界が開かれる。


「サっちゃん、来ちゃダメやっ!!」
「………ぇ?」


足場が、ない。崖だ。
そう感じた時には遅かった、私の体はころころと崖を転がっていく。
何度も何度も、アルマちゃんと一緒になって転がった。だから私も、転がるのは得意だ。
だけど………こんな断崖絶壁、転がり落ちて無事に済む訳が無い。
私は必死に目を閉じて、体を縮こませた。頭の中に死の恐怖が浮かび上がってくる。

「サっちゃんっ!!」
「…ぁ。」
「ぎゃふぅっ…!」

暖かい何かが私を包み込む感触、…そして、何だか尻尾を踏まれた猫みたいなヘンな悲鳴。
目を開けば、私を抱き止めたアルマちゃんが、私の下敷きになっていた。
崖の中腹に開いたちょっとした足場。とても狭くて、今にも崩れ落ちそうな…。
そんな足場に、私とアルマちゃんは引っ掛かっていた。

「アルマちゃんっ、ごめっ―」
「―サっちゃん、何で来たんよ!?来ちゃダメって言ったのに!!サっちゃんのバカ!」
「………ば、バカってなに!?アルマちゃんが勝手に飛び出すからイケナイんじゃないの、バカなのはアルマちゃんでしょ!」
「サっちゃんが安静にせなアカンって言うから、一人で遊びに来たのにっ…。サっちゃんは巣で大人しくしてなアカンのっ!」
「だからっ、アルマちゃんの事が心配でっ!………ば、バカバカッ!アルマちゃんのバカぁっ…!」


何故だか涙が止まらなくって、2匹でしっかりと抱き締め合って泣いていた。
どれくらいの時間だろう…、とっても長かったような、そんな気がする。
雨も風も止んでいないのに、凄く暖かくて安心できる。ずっとこうして居たい。

けれど、そんな私達の願いは長続きしなかった。
雨にぬかるんだ地面、その足場は、私達2匹を支えきれないほど脆くなってたから。
ぐらりと足場が揺れて、私達の体は宙に放り出された。
遥か下に森が見える。この高さから落ちたら、どうなるんだろう…?
嫌な考えが頭をよぎる。

アルマちゃんが、私の体をぎゅっと抱き締めた。私を庇うように、身を寄せてくる。
ちょっと前まで、同じ位の体長だったのに。今ではすっかりアルマちゃんの方が大きくて…、私の体がすっぽりと腕に収まる。
思い返せばいつだって、アルマちゃんは私の事を守ってくれていた。私がアルマちゃんを支えてあげてるつもりだったのに…本当は違ったんだ。

…いけない。このまま大人になっちゃいけない。私も、アルマちゃんを守れるようにならなくちゃダメだっ…!
私は願い続けた。私に羽があるのなら…今この瞬間羽が欲しい…。アルマちゃんを救いたい!


きっとそれは一瞬の出来事だったんだと思う。それでも私は必死に自分の殻を押し上げて、羽ばたこうともがき続けた。
ミシリとサナギが破ける音。流れ込んでくる冷たい空気。雨粒が体を塗らして、余分な殻を洗い流してくれる。

「…サっちゃんっ…!?」

驚いた表情のアルマちゃんの顔を、しっかりと掴み。産まれたばかりの羽で私は嵐に抗うように羽ばたき続けた。


――ドスンッ!!


…結果として、私の羽ではアルマちゃんの体重を支える事なんて出来るはずが無くて、2匹揃って地面に激突した。
体中が痛いけれど、私もアルマちゃんも無事。アルマちゃんの頑丈の甲羅が、私達を守ってくれたから。
結局私は、何もしてあげられなかった。…それなのに、

「サっちゃん、助けてくれてありがとうね…?」

そう言ってアルマちゃんは微笑むんだ。
………わかんないよ、私はアルマちゃんの為に何が出来たの…?

遠くから聞こえてくる大人の動物達の声。
それを聞きながら、私とアルマちゃんはどちらからともなく、眠りについていた…。


………

……



パチリと目を開く。
私の前には、私を抱き締めて眠るアルマの姿。
 
(懐かしい夢を見たな…)

アルマを起こさないように、そっと体勢を変える。木々の葉の間から朝日が見えた。

(…朝。早く逃げないと…。)

体中が痛む、昨日アルマと一緒に島中を逃げ回った疲れがまだ残っている。
何とか深い森で穴を掘って休める場所を確保したけれど…、朝になれば直ぐに見つかる。
本当は、アルマともっとこうしていたい…、だけど、そういう訳にも行かない。

(結局私は、何がしたいんだろうね…。)

今日の夕暮れまでにアルマは島を出なきゃいけない…、そうしないとアルマの命が危ないから。
なのに私は、少しでも長くアルマと一緒に居たくて、アルマと一緒に逃げている。

…矛盾してる。

わからない、私がアルマの為にしてあげられる事って、何なんだろう…。
夢に見た昔の映像が、ボンヤリと頭を掠める。あの時には、何も出来なかった…。
…小さく頭を振って嫌な思考を遠ざける。今は、アルマと逃げる事を考えないと…。

私はそっと、アルマを起こしに掛かった――
 

 
【Secne.4】
~決断と 決別と 結末~

時間が、迫ってる
もう、ウチは、決めなきゃいけない



ウチらは、走って、転がって、飛び続けた。島中の色んな所を見て周った。
それは追手の動物達から逃げるためだけど、どことなく寂しくて。
まるで、イタズラして怒られるのが嫌で必死に逃げた小さな頃に戻ったみたい。
そんな事をサっちゃんに話したら。

「私はいつも、アルマのイタズラに巻き込まれてるだけなのにね。」

と、笑っていた。
そうやっけ?サっちゃんこう見えて、結構イタズラしてたと思うんやけどなぁ。
懐かしい記憶が、いっぱいいっぱい思い返される。この島のどこにだって、ウチらの思い出が残っていたから。

一緒に暮らした森林も、一緒に転がった草原も。
一緒に戦った砂地とか、一緒にアブなかった山岳もあったし。
この島全てがウチらの思い出で作られてるみたいな、そんな大それた考えも抱いちゃうくらい、沢山の思い出達。

そんな島を巡りに巡って、ウチらは今、遺跡外の小さな丘の上に居た。
少しずつ日が下がっている、もう夕暮れ時。遠くには島から出ようとする最後の船の姿。
風が気持ちよくって、サっちゃんを抱きしめたままうとうとと眠っちゃいそうになる。

「…このまま寝ちゃおっか?」

そっと囁きかけると、サっちゃんはふるふると小さく首を振った。


「ダメよアルマ、もう時間が無い。貴女は、島の外へいかなくちゃ。」


サっちゃんの口からそう告げられる。
島が消えてしまうのなら、この島本来の動物ではないウチは、取り残される。
ひょっとしたら、そこには海しかないのかもしれない。だからウチは島の外へ逃げなちゃいけない…、鹿親分はそう言っていた。

「…でも、ひょっとしたら島も皆も、消えたりしないかも…」
「そんな事ないわよ。私には、分かるもの。」

キッパリと否定される。
暫しの沈黙。…ずっとこうしていたかったけど、サっちゃんがゆっくりと起き上がった。

「アルマ、人間達の所に行こう?」
「…嫌や。」
「そんなわがまま言わないで。」
「嫌や嫌や嫌やっ!」

ウチは必死に叫んだ、だだっ子のように首を振って、手足を振って。
皆と別れなきゃいけない未来を、必死に否定する。
サっちゃんは、ウチのわがままは絶対に聞いてくれる、今まだって、そうやったから、きっと…。


…いい加減にしなさいっ!!


想像に反して、返って来たのはサっちゃんの怒鳴り声、反射的に体がビクっと縮こまる。
そんなウチの目の前に顔を突き出して、サっちゃんは語り続けた。

「私達はアルマの事忘れちゃうんだよ?アルマと一緒に過ごした思い出、全部。」
「…だけどアルマは、私達の事覚えていられる。」
「それなのに、こんな所で死んでどうするのよ!」

泣きそうな顔がサっちゃんの顔が、ウチの目の前にある。

「私がアルマの為に何が出来るのか…、ずっと考えてた。でも、こんな事しか思いつかなくて………、ごめんね。」

その顔が、ゆっくりと近づいてくる。柔らかい感触、そして、微かな痛み。
お腹にサっちゃんの針が刺さっている。痛みは直ぐに消えて、体から感覚が消えていく。


「どうかお願い、私達の事を、忘れないで……。」


薄れていく意識の中で、サっちゃんの顔、皆の顔が浮かんでくる。
夕焼けの中、遠くに見える島が消えていく姿。ぼんやりとした頭で、それを眺める。
忘れないように、忘れないように、ただそれだけを考えながら。
…ウチの意識は、夢の中へと沈んでいった――

「おやすみ、アルマ。」

「…おやすみ、サっちゃん………――」
 
(Sence5へ続く)

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2009/11/10 04:54 | Comments(0) | TrackBack() | 日記ろぐ

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