時は進む、その終わりへと――
【Secne.3】
~過去から 現在への 絆~
夢を見ていた
遠い遠い、昔の夢
私がまだハチノコで、アルマもまだ小さくて
どうしてだろう
今になって、そんな夢を見るだなんて…
それは、とてもとても小さな頃のお話―
「アルマちゃーん!」
目の前をよちよちと歩くアルマちゃんを、わたしも地面を這って追いかけます。
わたしは殺人蜂の子供、ハチノコのサチ。
そして、アルマちゃんはアルマジロの子供。2匹は幼馴染です。
「アルマちゃーん、今日はどこに行くの~?」
「だぁ~う~♪」
アルマちゃんが笑顔で答えました。
まだ上手く、言葉を喋れないアルマちゃんだけど、何を言いたいのかわたしには分かります。
だって幼馴染だから、アルマちゃんの事は何でも知ってます。
でも…、アルマちゃんがあんな笑顔を見せる時は、いつも大変な事が起こるんです。
「だぅ~、だぁー!」
「あ、アルマちゃんっ!そっちは危ないから行っちゃダメって、大人の動物さん達が言ってたよ!」
やっぱりでした。アルマちゃんは元気良く、子供は入っちゃいけないお山へと向かってます。
それを易々と見過ごすわたしではありません、アルマちゃんをたしなめるのは幼馴染のわたしの仕事。
わたしはアルマちゃんに飛びつきました。えいっと、のしかかりです。
「だぅだぅ~、だぅー♪」
「あ、あ、アルマちゃん、すとっぷっ…。…え、あれぇー?」
…アルマちゃんは、体は小さいのに力持ちです。わたしはズルズルと引きずられて行きました。
ごめんなさい、やっぱり今日も、アルマちゃんを止める事は出来ませんでした…。
こうしてわたしとアルマちゃんは、山登りをする事になっちゃったのです。…大丈夫かなぁ?
その日はとても良いお天気で、絶好のハインキング日よりでした!
…だけどここはお山です、ハチノコには大変な道のり。わたしもたいへん。
「ま、待ってよアルマちゃん~。どこまで行くの~?」
「だぁ!」
息を切らせて登るわたしに比べて、アルマちゃんはまだまだ元気いっぱい。
お山のてっぺんを指で指して、わたしに呼びかけました。…あそこまで登りたいみたい。
でも、わたしの足じゃちょっと無理そうです。早く大きくなって、お空を自由に飛びたいなぁ…。
「わたしじゃ、あそこまで登れないよー…。」
「…だぁ?」
「ごめんね。でも、アルマちゃん1匹で行かせたくないから…、ここまでにしよ?」
「だぅ~…。」
わたしは足を止めて、アルマちゃんにお願いしました。アルマちゃんはしょんぼり、ちょっとかわいそう…。
だけどお山はあぶないんです、ちゃんとわたしが止めてあげないと。
日が暮れるまでまだまだ時間があります。山から降りたら、またお花畑でいっしょに遊ぼう、ね?
アルマちゃんはわたしのお願いを聞いてくれたみたいで、よちよちと山を降りてきました。
良かった、なんとか今日は無事に帰れそう…。そう思って一息ついた、その時。
「だぅ~♪」
「…え?きゃぁっ!?」
それは突然の出来事でした。
降りてきたアルマちゃんが、そのままわたしに近寄り…抱きついて来たのです!
それはもう、ビックリです。え、えっと、これはその、どういうアレなのでしょうか?
わたし達子供だし、それに女の子同士でそういうのは、い、イケナイと思うのです。
でもここはあぶないお山、周りには誰も居ません。わたしとアルマちゃんの2匹っきりです…。
ドキドキでむねいっぱいなわたしをよそに、アルマちゃんはわたしに抱きついたまま、押し倒して来ました!
ころり―
まるで、今まで見てきた世界が反転してしまうかのような、不思議な心地。
心の景色が全て空色に塗りつくされたようで、それでいて、アルマちゃんの姿は目の前にはっきり見えて。
とても開放的な気持ちにさせてくれます、今なら、自分の気持ちを素直に伝えられそう、そんな気分。
ころり―ごろり―
すると今度は、心の景色が地面色に染まりました。体もちょっと痛いです。
あぁそうか…。きっとわたしはまだ不安なんだ、だからこんなにも景色が暗くて、心が痛む。
わたしは恋なんてしたことないけれど、これが恋の痛みなのかな…、アルマちゃん。
ごろり―ころっ――
今度は跳ねました!わたしの心が躍るっ、…あれ、何だか違うような…?
続いてドシンっと強い衝撃。嬉しそうなアルマちゃんの笑い声。まわるまわるわたしの景色。
わたしは、やっと気付きました。
…そっか、わたし、ころがってる…
………
……
…
パチリと目を開く。
目の前には、私を抱きしめて静かに眠るアルマの姿。
(懐かしい夢を見たな…)
アルマを起こさないように、そっと体勢を変える。木々の葉の間から夜空が見えた。
(何時からだっけ、昔の夢を見なくなったのは。)
直ぐに思い到る、それはアルマと一緒に冒険するようになってからだ。
昔はいつも一緒だった、だけど私はアルマより早く成体になって…やがて会う機会がなくなった。
口には出せないけれど寂しくて、私は毎晩アルマの夢を見ていた。
でも今はアルマが側に居てくれる、だから夢を見る必要なんて無かった…なのに。
(寂しい…。こんなにも側に居るのに…。)
気が付けば、私はまたアルマにしがみ付いていた。
体が震える、アルマの温もりが暖かいのはずなのに、心が凍える。
ただただ震える私の元に、穏やかな声が掛けられた。アルマとは違う声―
「眠れないのかい、サチちゃん?」
ぬっと大きな顔が私の頭上に現れる。
夜空の下でも分かる白い歯と、ぬめぬめっと煌く素肌、チャーミングなおめめ。
この方が、逃げる私達を助けてくれて、この森に匿ってくれた方。
「…大蛞蝓さま。」
「心配要らないよ、この森は僕のテリトリーだからね。朝までは安全さ。」
「大蛞蝓さまを信用してない訳じゃなくって…」
「うん、気持ちは分かるよ、サチちゃん。でも朝になったら庇いきれない、君達は明日も走り続けなきゃいけないんだ。今は休まないと行けないよ、アルマちゃんの為にもね?」
「…はい。」
穏やかな口調で、優しい笑みを掛けてくれる。
大蛞蝓さまに助けられるのはもう2度目だ、1度目は…私とアルマが一緒に冒険できるようになったあの日。
初めてアルマと共闘し、大蛞蝓さまに立ち向かった。勝てるはずが無かったのに、2匹だったら勝てた。
あの日から私とアルマはずっと一緒にいる、それは大蛞蝓さまが与えてくれた確かなキッカケ。
「大蛞蝓さまは、どうして私達を助けてくれるの?今も…あの時も。」
「はは、かよわい乙女に手を差し伸べるのは紳士として当然だろう?…と、前には言ったかもしれないね。…ホントは僕はね、君達は2匹で一緒にいるべきだと思ったのさ。」
アルマを起こさないように、優しく小声で囁きかけてくる。
「”人は一人では生きていない”と言う言葉は動物には当て嵌まらない、僕達は一匹で生きていく事も可能だからね。だが君達は、それが出来ていない。それが不思議でね、確かめてみたくなったのさ。それが1回目の理由だ。」
「………」
「そしたらどうだろう、君達は一緒に居る事でますます輝くようになったじゃないか。そんな君達の輝きは周りも照らしてくれる、だから僕はそれを守りたいと思ったんだよ。これが2回目の理由だね。」
「私達…輝いてますか…?」
「あぁ、輝いているとも。2匹でいる時が、何よりも。」
大蛞蝓の言葉を聞いて、アルマに意識を集中した。
一緒に…2匹で一緒に居る。それだけで、とても心地良くて安心出来る。
さっきまでの震えは止まって、私はじっとアルマの腕の中で包まっていた。
「それに僕はね、君達の輝きは鹿君の言う”王の素質”に匹敵するとも思っているんだよ…。」
大蛞蝓さまの声を聞きながら、私の意識は再び夢の中へと落ちていった―
【Secne.4】
~決断と 決別と 結末~
時間が、迫ってる
もう、ウチは、決めなきゃいけない
ウチらは、走って、転がって、飛び続けた。島中の色んな所を見て周った。
それは追手の動物達から逃げるためだけど、どことなく楽しくて。
まるで、イタズラして大人達に追っかけられてた小さな頃に戻ったみたい。
そんな事をサっちゃんに話したら。
「私はいつも、アルマのイタズラに巻き込まれてるだけなのにね。」
と、笑っていた。
そうやっけ?サっちゃんこう見えて、結構イタズラしてたと思うんやけどなぁ。
懐かしい記憶が、いっぱいいっぱい思い返される。この島のどこにだって、ウチらの思い出が残っていたから。
「私はいつも、アルマのイタズラに巻き込まれてるだけなのにね。」
と、笑っていた。
そうやっけ?サっちゃんこう見えて、結構イタズラしてたと思うんやけどなぁ。
懐かしい記憶が、いっぱいいっぱい思い返される。この島のどこにだって、ウチらの思い出が残っていたから。
一緒に暮らした森林も、一緒に転がった草原も。
一緒に戦った砂地とか、一緒にアブなかった山岳もあったし。
この島全てがウチらの思い出で作られてるみたいな、そんな大それた考えも抱いちゃうくらい、沢山の思い出達。
そんな島を巡りに巡って、ウチらは今、遺跡外の小さな丘の上に居た。
少しずつ日が下がっている、もう夕暮れ時。遠くには島から出ようとする最後の船の姿。
風が気持ちよくって、サっちゃんを抱きしめたままうとうとと眠っちゃいそうになる。
「…って、まだ寝ちゃダメでしょうがっ!?」
そう言ってほっぺをツンツンするサっちゃん。お互いに笑い合いながら、ゆっくりと起き上がった。
少しずつ日が下がっている、もう夕暮れ時。遠くには島から出ようとする最後の船の姿。
風が気持ちよくって、サっちゃんを抱きしめたままうとうとと眠っちゃいそうになる。
「…って、まだ寝ちゃダメでしょうがっ!?」
そう言ってほっぺをツンツンするサっちゃん。お互いに笑い合いながら、ゆっくりと起き上がった。
その時にはもう、辺り一面を動物達に囲まれていた。
「良い思い出は出来たか、アルマ?そろそろ時間だ、観念してもらおうか。」
動物達の輪の中から、鹿親分が進み出る。
「ミィちゃん達は?」
「抵抗が厳しいのでな、少し休んでもらっている。…心配しなくても、ミラには傷付けてないぜ。残りは保障出来ないが。」
冷たくそう言い放つ鹿親分に、動物達の輪がどんどんと狭まってくる。
自然とサっちゃんが飛び上がり、ウチの死角を補うように周りを旋回する。いつでも戦えるように…。
大鳩兄ぃさんは言ってた、日が暮れるまで逃げ切ればウチの勝ち…、それはもう直ぐそこ。
「あんね、鹿親分。ウチずっと考えたんやけどね。…やっぱり、島に残りたい。」
「…ふん、そんな甘い話が今更通じると思っているのか?」
「確かにウチは甘いよ、子供やもん。それでもウチは、動物達が好きやから…。サっちゃんも、島も皆も、この島の全部が好きやから。だから、残りたいって思うよ。」
「ではアルマ。人の世界に行かずに、人の事を知らずとも、ジャングルの王になりうる素質を俺に示せるか?お前が愛するこの島を、…守り通す為の。」
鹿親分の眼光が、鋭くウチに突き刺さる。
”ジャングルの王の素質”。鹿親分は人であり獣である事が素質だと言っていた。
けれどウチは、人になる事を拒んだ…。違う素質を示さなきゃいけない。
ウチは強くない、強くなった気がしてもそんなのは勘違いで、いつもいつも誰かに助けられてきた。
ウチは、決して強くはない。島の皆を守りたいなんて考えても、ウチにそんな力はなかった。この冒険で、それは嫌って程思い知らされた。
そんなウチが、この島を守れる可能性。…ウチに残されたたった一つの可能性。
”ジャングルの王の素質”。鹿親分は人であり獣である事が素質だと言っていた。
けれどウチは、人になる事を拒んだ…。違う素質を示さなきゃいけない。
ウチは強くない、強くなった気がしてもそんなのは勘違いで、いつもいつも誰かに助けられてきた。
ウチは、決して強くはない。島の皆を守りたいなんて考えても、ウチにそんな力はなかった。この冒険で、それは嫌って程思い知らされた。
そんなウチが、この島を守れる可能性。…ウチに残されたたった一つの可能性。
それは―
「これ!」
―周囲を牽制していたサっちゃんをひっ捕まえて、グイっと差し出す。
「…サチ、だと?」
「アルマっ!?い、いきなりヘンなところ掴まないでよ!!」
ジタバタと慌てるサっちゃんを、自分の胸でしっかりと抱きとめる。
「俺はジャングルの王の資質を示せと言ったんだぜ?」
「うん、サっちゃんがそうやよ!」
「うん、サっちゃんがそうやよ!」
ウチは自信満々に頷いた。サっちゃんも目をぱちくりと見開いてウチを見上げる。
「ウチは1匹じゃすっごく弱いの。この島を守る力なんてある訳ない、ジャングルの王になんて絶対なれへ。…でもね、サっちゃんが居てくれたら、何でも出来る、そんな気がするの。だからサっちゃんが、ウチの可能性。」
「…奇麗事だな。2匹揃ったぐらいで何が出来る。」
「…本当にそう思う?鹿さん。」
「…奇麗事だな。2匹揃ったぐらいで何が出来る。」
「…本当にそう思う?鹿さん。」
今度言い返したのはサっちゃんだった。不敵な笑みを浮かべて鹿親分を睨み返す。
サっちゃんはウチの腕から飛び出すとあたりをグルっと回り、ウチの肩に飛び乗った。
さり気無くウチの頭にもたれながら、堂々とした態度で喋り続ける。
サっちゃんはウチの腕から飛び出すとあたりをグルっと回り、ウチの肩に飛び乗った。
さり気無くウチの頭にもたれながら、堂々とした態度で喋り続ける。
「私とアルマが一緒に居て、本当に何も出来ないと思ってるのかしら?」
「…出来ると言うのか?この人数相手に、たった2匹で。今回は助っ人も居なぜ。」
「出来るわ。私とアルマが、”一緒”なら。何十匹でも、何百匹が相手でも、ね。」
「…出来ると言うのか?この人数相手に、たった2匹で。今回は助っ人も居なぜ。」
「出来るわ。私とアルマが、”一緒”なら。何十匹でも、何百匹が相手でも、ね。」
そう言ってウチの肩離れる。すぐ背中からサっちゃんの羽音が響いてくる。
そうや、サっちゃんとなら何だって出来る。ウチとサっちゃんが”一緒”に居る限り、どんな相手にだって負けはしない。
それが、ウチらの可能性。…そうやんね、サっちゃん。
そうや、サっちゃんとなら何だって出来る。ウチとサっちゃんが”一緒”に居る限り、どんな相手にだって負けはしない。
それが、ウチらの可能性。…そうやんね、サっちゃん。
「アルマ、いつも通りの戦い方で行くわよ。」
「私が相手の足を止める、アルマはずっと転がり続ける。」
「私が居る限り、アルマにはどんな攻撃も当たらない。だからアルマは、ずっとずっと転がり続ける。」
「貴女の転がりは、この島で…ううん、世界で一番だから、ね。」
「さあ、行くわよ。…木々よざわめけ、祝福の歌!」
「私が相手の足を止める、アルマはずっと転がり続ける。」
「私が居る限り、アルマにはどんな攻撃も当たらない。だからアルマは、ずっとずっと転がり続ける。」
「貴女の転がりは、この島で…ううん、世界で一番だから、ね。」
「さあ、行くわよ。…木々よざわめけ、祝福の歌!」
後ろから聞こえるサっちゃんの声。
やがて周囲の木々から木の葉が舞い散り、辺り一面を染め上げる。
もう誰も、ウチらを止める事は出来ない。サっちゃんの支援は、この島で…世界で一番やから。
ウチは改めて、背負った甲羅の感触を確かめた。
使い続けて少し痛んだその甲羅をしっかりと背負いなおして、振るわせる。
それを合図に甲羅は開き、円を描くようにウチの体を覆いつくす。
その瞬間に左足で地面を蹴った。ゆっくりと体が前へ押し出される。
使い続けて少し痛んだその甲羅をしっかりと背負いなおして、振るわせる。
それを合図に甲羅は開き、円を描くようにウチの体を覆いつくす。
その瞬間に左足で地面を蹴った。ゆっくりと体が前へ押し出される。
目に映る空は、青から赤へ、すっかり夕暮れ色に染まっていた。
視界が巡れば、木の葉に遮られて身動きが取れない動物達の姿。
鹿親分はこちらを見据えて、大きな壁のように立ちはだかっている。
そしてサっちゃんと、…一瞬だけ目が合った。
巡る巡る視界の中で、360度全てを見渡す。何一つ見逃さずに記憶に留める。
ウチは転がり、鹿親分へと激突する。
だけどその転がりはあっけなく弾き返された、そのまま辺りを回りながら体勢を整える。
…それで良いんよ。
サっちゃんが足を止める、だからウチは、サっちゃんを信じて転がり続ける。
どこまでも、どこまでも、加速していく。
ウチの転がりを止める事は誰にも出来ない。
サっちゃんが居てくれる限り…、誰もウチに触れられないんやから。
だけどその転がりはあっけなく弾き返された、そのまま辺りを回りながら体勢を整える。
…それで良いんよ。
サっちゃんが足を止める、だからウチは、サっちゃんを信じて転がり続ける。
どこまでも、どこまでも、加速していく。
ウチの転がりを止める事は誰にも出来ない。
サっちゃんが居てくれる限り…、誰もウチに触れられないんやから。
そして2回目の激突。
勿論あっけなく弾かれる、けれど誰の攻撃もウチらには届かない。
3回目。
4回目。
5回目。
6回目。
…………。
勿論あっけなく弾かれる、けれど誰の攻撃もウチらには届かない。
3回目。
4回目。
5回目。
6回目。
…………。
ウチらの転がりは、まだまだ始まったばかりなんやからっ!
「アルマっ!」
「ころ・がり~!!」
(Sence5へ続く)
ひとつの結末 前編(Sence1~2)
ひとつの結末 中編(Sence3~4)
ひとつの結末 後編(Sence5)
もうひとつの結末 前編(Sence1~2)
もうひとつの結末 中編(Sence3~4)
もうひとつの結末 後編(Sence5)
あとがき
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