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2024/11/24 04:36 |
ひとつの結末~後編~

島は終わり、それでも物語が紡がれる―


【Secne.5】
FI―動物

あれから、長い月日が過ぎた― 





「アルマっ、アルマっー!!」

私は大声を張り上げて名前を呼んだ、勿論返事は無い。
馴れ親しんだ森の木々の間を、すり抜けるように飛び回り、相手の姿を探していく。
私は殺人蜂のサチ。そしてここは、”私達”の森。


「あんのバカっ、今日はどこで油売ってんのよっ。」

私は盛大に溜息を付いた。この生活を始めてから、溜息の数が増えたような気がしてならない。
森の動物達にアルマの居場所を尋ねてみても、「あっちで遊んでいた」だの、「そっちで寝ていた」だの、「こっちから転がってきた」だの、…要領を得ない情報ばかりだ。
と言うかロクな事してないわね、あいつ。自分の立場わきまえてんのかしら。

とにかく、私は自分の勘を頼りに森を飛び回った。
森と言ってもそう広くはない、やがて1本の大木のウロでアルマの姿を発見する。


「アルマ、あんたいつまでサボってっ…――」
「…すぅ、すぅ…」


小さな寝息が聞こえる。私は、言葉が続かなかった。
ここ数年で、アルマの体はすっかり大人のソレになっていた。背も伸びて、手足が長くなって、…それに、何だか柔らかくって、良い匂いもするようになった。…やってる事は何時までたっても子供っぽいのに。
そんなアルマの寝顔を見てると、何故か起こす気になれなくて、側でずっと見ていたくなる。
ちなみに、私の方は全くもって変化していない。アルマ曰く”ちっこい方が良い”らしいけれど、何だかおいてけぼりな気分。

「あ、アルマ…、起きてよ。」

何故か小声になる、ねぼすけのアルマがこんな声で起きる訳ないって分かってるはずなのに。
私はゆっくりと側に降り立って、その頬にそーっと………。

「っ捕まえたぁっー!!」
「えぇっ!?」

突然、ガバァっとアルマが起き上がって私に抱きついてきた!まさか、寝たフリ…!?
ひとしきり、私に頬すりしてから体を離し、アルマは寝ぼけ眼でこう言った。

「…あれぇ?サっちゃん、何やってんの?」

…はぁ、本当にアルマは全然変わってないわね…。



アルマを落ち着かせてから、改めて溜息を付く。やっぱりこの生活を始めてから増えたみたい。

「アルマ、今日は何の日だか覚えてる?」
「…え、サっちゃんの誕生日は今日やないし…、初デート記念日やないし…」
「いや、初デート記念日とか無いからっ。ってそうじゃなくて、今日は会議の日でしょうっ!?」
「…そうやっけぇ?」
「そうなのよっ、アンタ、自分がこの森のボスだって事分かってんの!?」

私はぐっとアルマに詰め寄った。だけどアルマは、ちっとも怯まない。
そう、これでもこの子はこの森のボスなのだ、威厳もへったくれもないけれど。
この島の中でも、さらに小さなこの森を、治めている…ハズなんだ。

あの日…、島が外界から隔離されたあの日から、アルマはアルマなりの方法でジャングルの王になるべく努力した。
…まぁ、パッと見遊んでばかりなんだけど、それでもちゃんと努力はしていた。
やがて、鹿さんからこのちっぽけな森を任せられた。アルマはこの森のボス、私はその補佐。

だと言うのに、アルマがやる事と言えば森の動物達と遊んだり寝たり…転がったりばかりだ。
面倒な事務仕事は専ら私の担当になりつつある。適材適所…で済ませて良いと思う?
あのルーニですら、今はサキュバスに成長してどっかでボスやってるって言うのに。訛り系アイドルとか訳のわかんないキャッチフレーズまで付いてるし…。
それなのにアルマと来たら…。いもうちょっと対抗意識ってのが無いのかしら。


「…とにかく、さっさと戻って今日の会議を…。」
「サっちゃん。」


引き返そうとした私の体を、アルマがそっと掴みとめる。
柔らかい胸に私を抱きとめて、そっと囁きかけてきた。甘い匂いがする。

「2匹っきりやね…?」
「あ、アルマ…?止めてよ、また変な冗談言って…。」
「冗談やないよ?ウチら、もう大人なんやから…。」
「だ、だから今は、会議が……」
「ちょっとだけ…ね?」

そうして、ゆっくりと、アルマの手が私の体を………―――


お姉ちゃーーーん!!!
きゃあああぁぁっ!!?


突然に、木々の上から大きな可愛らしい声が響いてくる。
咄嗟に悲鳴を上げてアルマから離れる、上を見れば、大きな影が木々を縫って降下して来た。
風を巻き上げながら、開いた広場へと着地する。

「アルマお姉ちゃん、サチお姉ちゃん、やっと見つけましたぎゃあ。」

私達と視線を合わせるように首を下げ、ニコニコと大きなおめめを輝かせて微笑んでいる竜。この子はミニドラゴンのミラ、通称ミィ。ちょ~っとここ数年でおっきくなっちゃったけど、それでもまだまだ小さな”ミニ”ドラゴン、…らしい。
それでも最近は、その翼を活かして島の伝令さんとしてお仕事してる、アルマより随分立派だ。
ミィは訛りの残った舌足らずな口調で話しかけてきた。

「…ひょっとして、わたし、お邪魔でしたぎゃ?」
「んーん。そないな事ないよ?ちょいとお楽しみ中やっただけで~。」
「ば、バカアルマっ、何言ってんのっ!?」
「わーわー、ごめんなさいですぎゃ!つ、続きをどーぞ…?」

そう言って両手で目を覆うミィ。うん、その大きなおめめを明らかに隠しきれてないのだけれど。
この子、明らかにアルマの悪影響を受けてるわよね。この先ヘンな事にならなきゃ良いんだけど…。

「あのね、ミィ、何か用事があったのよね?」
「…あ、そうでしぎゃ。ニュースです、大ニュースですぎゃっ!」
「そっかぁ、いつも伝令のお仕事ご苦労さまぁやねぇ、ミィちゃん。」
「ぎゃわぁ…、どういたしましてですぎゃ。アルマお姉ちゃん…ぎゃ、アルマボスさんも、ご苦労様ですぎゃ?」
「えっへん、それ程でもないけどなぁ~。」
「そりゃあアルマは遊んでばかり…。って、だからミィ、ニュースの方は?」

改めて尋ねてみると、ミィはポンっと手を叩いて改めて飛び跳ねた。
この辺りのボケっぷりも、アルマにそっくりだ。将来アルマみたいになったらどうしよう…。
嬉しいような、悲しいような。姉貴分として複雑な心境だ。


「大ニュースなんですぎゃあ。地上の浜辺に人間さんの赤ちゃんが流れ着いたんですぎゃ!」


ドーンっと、ぷっくりしたお腹を張ってさも嬉しそうにニュースを話す。
…人間の赤ん坊が流れ着いた?…それって、ひょっとして…。

(アルマ…みたいに…?)

小さく呟いて、アルマを見上げる。アルマはじっと俯いて何かを考えてる。
昔、私が生まれたのと同じ頃、アルマもこの島に流れ着いた人間の赤ん坊だった。
鹿さんや大鳩さんがアルマを拾って、この島で動物として育て上げた。アルマはちゃんと…、こうして動物として成長してくれた。

そして今度また、人間の赤ん坊が島に流れ着いた…。
誰かが拾って育ててあげないと…、きっとこの島では生きてはいけない。


「アルマ………?」

「…………決めた。」


何か決意を込めた瞳で、アルマが呟いた。ジっと私へと視線を向ける。
いつになく真剣なその表情に、何故だか胸が熱くなる。
アルマは私を見つめたまま、大きく息を吸って。

その子をウチらの養子にしよう!!

っと、宣言した。

「…は?」

「ウチね、ずっと思ぅてたんよ、そろそろサっちゃんとの子供が欲しいなぁて。」
「きゃーきゃー、やっぱりそーいう関係でしぎゃあ!?わたし、応援しますぎゃー!」
「違うからっ!アルマの冗談を真に受けないでよミィ!?」
「でもね、ほら、ウチはアルマジロでサっちゃんは蜂、越えられない種族の壁が!」
「それ以前に、私達メス同士だからっ!」
「やけど、養子やったらそないな事関係ないやんね!?」
「メス同士なら関係あるでしょうっ!?」
「アルマジロと蜂の子供やから、ダンゴムシやね!ほな行ってくる!」
「何がどうしてダンゴムシっ…!?ちょっ…!?」


混乱する私を他所に、アルマは止める間もなく凄い勢いで転がって行った。
取り残された私を、ミィがにこにこと幸せそうな表情で眺めている。

「ミィ、分かってると思うけど、さっきのは…」
「はいですぎゃ!わたし、急いでみんなに知らせてきますぎゃ。ひとっ飛びですぎゃー!」
「そ、そうじゃなくて、さっきのはアルマの冗談でっ…!」
「お幸せにですぎゃぁ~!」

大きな翼を広げて、ミィも飛び去っていった。あっと言う間に声が届かない距離へと離される。
ミィのお仕事は伝令さんだ、あっと言う間に島中に噂が広まるだろう。噂の内容は…想像も出来ないけれど。
暫くポツンと1匹で佇んでいたが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
本日数度目の溜息を付いて、飛び出した。


「アルマっ、待ちなさいっー!!」


やれやれ。
アルマと居る限り、私の苦労はまだまだ続きそうね…――

(FI―End)



ひとつの結末 前編(Sence1~2)
ひとつの結末 中編(Sence3~4)
ひとつの結末 後編(Sence5)

もうひとつの結末 前編(Secne1~2)
もうひとつの結末 中編(Sence3~4)
もうひとつの結末 後編(Sence5)

あとがき
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2009/11/10 05:27 | Comments(0) | TrackBack() | 日記ろぐ

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