~11日目、大鳩の記録より~
~大鳩のプライド~
その日は雨が降っていた。
大きな雨粒が打ちつける。…体が重くて飛ぶ気も失せる。
自慢の翼が泥に汚れる。だがそれすらも、如何でもいい気分だ。
(負けた…。アルマに負けたのか、この俺が…?)
昨日の戦いで負った傷が、その事実を告げてくる。
……認めたくない。
俺は大鳩だ、アルマにとって、頼れる兄貴分じゃなきゃいけねぇんだ。
俺がアイツに負けたら、アイツは誰を頼るってんだよっ…!
それなのに俺は、…アルマに負けたんだ。
(何でだよ、前は俺が勝ったじゃねぇか。4日間、たったの4日間で追い抜かれたってのか?)
ありえない、そんな速度で成長する筈がない。
この島に、そこまで急激に成長する動物は一匹もいやしない。
居るとすれば、そいつは…。
(…そいつは、人間達と同等。)
冒険者。
そうだ、俺達の島に踏み込んで来た人間共。
どいつもこいつも弱っちい、そのくせ直ぐに強くなりやがる。
それがアイツ等の実力?才能だって?
笑わせんじゃねぇよ、あんなのは守護者達が気まぐれに与えただけのモンだろうが。
……俺達動物は、守護者の加護なんて受けてねぇ。
だから俺達の成長には限度がある、自然の摂理には逆らえない。
それなのに、何でだよ……
(何でアルマが、守護者に選ばれなきゃいけねぇんだ!)
…分かってたさ、だからって割り切れるか?
アイツは成長し続ける、なのに俺の成長は打ち止めだ。
じわじわと離されていく力量、努力だけじゃ詰めようがねぇ。
そしていずれは、会う事すら出来なくなる。
…寂しいか?寂しいだろうよっ!
12年間一緒に居たんだ、それを今更失えってのか?
こんな人間共が仕組んだパーティー劇に、何でアルマまで引き込まれなきゃいけねぇんだっ…。
(…アイツが人間だから?ふざけるな!)
アルマは人間なんかじゃない、俺達と同じ動物だ。
(だったら…、人間達と接したからだ。そうだろう?)
この10日間で、アイツが何度も口にしている。
人間さんは良い人だの、一緒に居ると楽しいだのと、嬉しそうにな。
そんなに人間が好きかよ、アルマ。
俺は人間達のように、成長する事は出来ないってのに。…お前について行ってやる事すら出来ないってのに。
気にくわねぇ…。
人間も、守護者も、アルマを人間の所に送り込んだ鹿の野郎もっ!
どいつもこいつも、気にくわねェッ…!
大鳩「どうやったらアイツに追いつける、どうやったら離されずにすむんだよっ。畜生ッ…!」
アルマ「にぃさんっ…、大鳩兄ぃさん!そこに居るの!?」
土砂降りの雨の中、アルマの声が聞こえてきた。
ずぶ濡れで、泥まみれで、今の俺と同じ姿。
何度も転びそうになりながら、此方へ向かって走ってくる。
その顔は、今にも泣き出しそうな、怒り出しそうな、…そんな嫌な表情。
大鳩「あァ…、何の用だよ、アルマ。」
アルマ「何で勝手に居なくなるんよっ、まだ手当てしてへんやないの!!」
大声で怒鳴ってくる。
…本気で怒ってやがるな、これは。
大鳩「別に大した怪我じゃねぇよ、ほっときゃ直る。」
アルマ「うるさいっ!そんな泥まみれで病気かかったらどうすんのっ、ちゃんと考えぇや!」
…やっぱり怒鳴ってくる。
泥まみれなのは自分も同じくせにな。ずっと探してたのか、ボロボロじゃねぇか。
大鳩「ほっとけ、つってんだろ。俺が居なくなっても、もう大丈夫だろうが。」
自嘲を込めて口走る。
アルマは既に、俺より強い。そして、これからも成長し続ける。
俺にしてやれる事なんて、何も残ってない。
だが、アルマから返ってきたのは怒声でも泣き言でもなく、衝撃の一撃―
ドゴォンッ!
(ず、頭突きぃッ…!?)
慌てて擦ろうとする両翼ごと押さえ込まれ、真正面にアルマの顔が現れる。
アルマ「…人間さんが嫌いや言うんは構わへん、ウチの事嫌いになっても別にえぇ。けどな、ウチが大鳩兄ぃさん居なくても平気やなんて、勝手に決め付けるんは許さへんよっ!!」
刺すような視線で俺を見つめ……いや、睨みつけてくる。
こんな目を見るのは初めてだな。……そこまでして怒る事なのかよ?
アルマはそれ以上は何も言わない。力ずくで俺を木陰まで引きずり、無言で傷を手当てしている。
(…けどな、アルマ。俺はもう、お前には追いつけねぇんだぜ?)
お前はその事を、理解してるのか?
理解せずに言ってるなら、お前はこの先、どうすんだよ…。
アルマの両腕に身を任せながら、俺はただイラついていた。
あァ、気にくわねぇ…。
人間も、守護者も、…強くなれない俺自身も。
(何もかも、気にくわねぇよ…。)
弱肉強食。
強くなければ認められず、強くなれなければ、そこには居れない。
彼が強くなれるかは、アルマとは別の物語。
今はただ、雨音響く小さな木陰での物語。
奇跡か、それとも現実か、
それは彼と世界が決める事。
強くなければ認められず、強くなれなければ、そこには居れない。
彼が強くなれるかは、アルマとは別の物語。
今はただ、雨音響く小さな木陰での物語。
奇跡か、それとも現実か、
それは彼と世界が決める事。
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