~15日目、アルマの日記より~
~前日のあらすじ~
昨日の訓練相手、狼くんと大鳥さん。
だけどウチは、2匹に手も足も出せなくて…。
サっちゃんの叫び声を聞いたんが最後、気を失ったんよ。
…ごめんな、サっちゃん。
ウチまだ、弱いみたいや…。
昨日の訓練相手、狼くんと大鳥さん。
だけどウチは、2匹に手も足も出せなくて…。
サっちゃんの叫び声を聞いたんが最後、気を失ったんよ。
…ごめんな、サっちゃん。
ウチまだ、弱いみたいや…。
ジメジメとした湿気、気がつけばウチは、森の中で寝とったの。
むにゃっと柔らかい感触がして、見下ろしてみたらそこに居るのはサっちゃん。
針が刺さらんように横を向いて、ウチに抱きかかえられとる。
アルマ「…あれ、サっちゃん、何でウチと一緒に寝てんのん?」
殺人蜂(サチ)「……あんたが、その……放さなかったからでしょう?ほら、怪我してないなら起きなさいよ!」
何か照れた様子で、腕の中から飛び出して行く。
…ウチ、やられる前にサっちゃん抱きしめたんやったっけ?
うぅん…覚えてへんけど、それもありそうやわぁ。
そんな風に昨日の事考えれば、直ぐに思い出せるの。あの戦いの事、ハッキリと。
アルマ「…ウチ、負けたんよね。やっぱり大鳥さんには敵わへんなぁ…。」
守らなアカンって、勝たなアカンって、そう思ってた相手やのに。
…やっぱりウチ、調子乗ってたんかな。
ウチなら、動物たち皆を守れるんやって、…そう考えてたんよ。
だけど、大鳥さんに睨まれた時の震え、今でも思い出せんの。
凄い怖かったんよ、戦ってる時も、気を失う直前も、すんごい怖かった。
………ウチ、強くなれてたんかな。
ウチを護ってくれてた大鳩兄ぃさんぐらいに、
皆を護ってくれる鹿親分ぐらいに、強くなれるんかな……。
サチ「…アルマ、貴女は十分戦ったから。大丈夫よ、この先はちゃんと――」
サっちゃんが何か言葉を掛けてくれようとした、その時。
ネチャネチャ ヌトヌト ビッチャビチャ
そんな大きな音を立てて、森の木々を掻き分けながら、その方が現れたの。
巨大な体躯、爽やかな白い歯と笑顔、ピョコンと可愛く飛び出すおめめ、そしてヌメっとしたその肌。
優雅な仕草でウチの前に立ち止まり、紳士的に顔の位置をグイっと下げる。
粘りけのある綺麗な声で、ウチに話しかけてくれるの。
大蛞蝓「ごきげんよう、アルマちゃん。体はもう良いのかい?痛む所があれば言ってごらん(歯がキラーン)」
アルマ「お、お、おっ、大蛞蝓さまぁーっ!!?」
そう、このお方は大蛞蝓さま。
とってもかっこ良くて、優しくて、島のメスっ子達の誰もが憧れる動物さんやよ!
ヌメヌメ王子って呼ばれるその方が今、ウチの目の前に居るの。
ウチはオスの動物の事とか、あんまり考えた事ないけど。
大蛞蝓さまに見つめられたら、やっぱりドキドキしちゃうんよ。
隣を見たら、サっちゃんも顔を赤くしとるの。
いつもはツンツンしてるけどサっちゃんやけど、やっぱりメスっ子やもんね。
サチ「アルマが倒れた後で、暴れる大鳥を懲らしめてくれたのよ。そしてこの森まで運んでくださったの、ここなら安全だからって。」
アルマ「そうなんや…。ホンマにありがとうございます、大蛞蝓さま。助かったんよぉ~。」
大蛞蝓「ははは、気にしないでくれ。キミ達のようなか弱い乙女が傷付くのを、黙って見てなんていられないさ(歯がキラーン)」
そして大蛞蝓さまから飛んでくる一つのウィンク。
サっちゃんってば急に浮力を無くして、ふらふらぁ~っと落ちてくるの。
慌てて抱きかかえたけど、サっちゃんでもこんな風になるんやねぇ…。
大蛞蝓「それとね、もう一つ用事があるんだ。実は今日のアルマちゃんの訓練、僕が受け持つ事になったんだよ(歯がキラーン)」
アルマ「………えっ?」
言葉の意味を直ぐには理解できなくて、首を傾げる。
今日の訓練相手が、大蛞蝓さま?
それってウチが、大蛞蝓さまと戦うって事やの?
えぇぇぇっ!!?
アルマ「そ、そんなん勝てへんよぉっ、大蛞蝓さまはウチなんかよりずっとずっと、強いのにっ!」
大蛞蝓「勿論僕は手加減するよ。それにね、アルマちゃん、訓練って言うのは勝つだけが全てじゃないのだよ?(歯がキラーン)」
そう言いながら、大蛞蝓さまはその巨体を持ち上げたの。
森の木々より高いその体から、ウチら2匹を見下ろして。
顔は高すぎてよぅ見えへんけど、よく響くその声は下まで届いてくる。
大蛞蝓「…うん、そうだね。だったらサチちゃん、キミもアルマちゃんと一緒に戦ってみたらどうだい?(きっと歯がキラーン)」
サチ「…わ、私が、アルマと…?で、でも…。」
急に話を振られたサっちゃんは、驚いたような困ったような。
ウチの腕の中で、複雑な表情を浮かべとる。
ウチとサっちゃんが、一緒に戦う…?
2匹で一緒に…。
大蛞蝓「キミ達は姉妹同然に育った仲良しだ。2匹で力を合わせれば、僕を退ける事も出来るかもしれないよ(きっと歯がキラーン)」
サチ「…わ、私は………。」
ウチの腕の中からゆっくりと、サっちゃんが飛び立って行く。
力強く羽音を響かせて、ウチの隣にしっかり並んで、小さく何かを呟いて…。
それに被さるように、大蛞蝓さまの声が森に響いたの。
大蛞蝓「さぁ始めようか、今日も良い天気だからね!(爽やかに歯がキラーンッ)」
ヌメっとした、カッコ良いその巨体が、ウチら2匹を飲み込もうと襲い掛かって来る。
サチ「…私にも出来るのよね…?アルマと、一緒なら…。」
そうしてウチらは、大蛞蝓さまに立ち向かって行ったの。
勝てなくても、サっちゃんと一緒に居れるんは、大切な時間やから。
そうやんね、…サっちゃん。
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